弁護士堀鉄平の交渉の奥義!「アメの効用、ムチの効果」その1
「お返ししなければ」と思わせる心理
さて、今回は、交渉の奥義として、
「アメとムチを使いこなせ!」という技術をご紹介いたします。
人間は、他人から何かをしてもらうと、
「お返しをしないといけないな」という気持ちを抱くのが通常です。
アメを貰ったら、自分も何かお返しをしないと気持ちがすっきりしません。
この心理を利用した交渉術の典型が、営業マンの取引先に対する接待です。
取引先を高級料亭で接待した後、銀座のクラブで深夜まで盛り上がり、
最後にお土産とタクシー券まで手渡ししてお見送りする。
ここまでアメを与えられると、相手も、今後の仕事を断りづらくなるのは当然です。
このように、交渉において、アメを与えることの有効性は疑う余地がありません。
ただ、このように一方的にアメを与える作戦が功を奏するのは、
既に信頼関係が出来上がっている相手との関係に限定されます。
敵対するライバルや損害賠償請求の相手方との交渉において、
一方的にアメを与えても、当然、相手はそのままアメを受け取って、
しかし何の譲歩もしないということになりかねません。
そこで、そのような難敵に対しては、
アメを与える前に、十分なムチを振るうことが重要です。
具体例を挙げましょう。
自分がお金を貸した相手が、なかなか返済してくれない。
200万円ほど貸したのだが、月々10万円ずつ返済するという約束をしたところ、
最初の2か月分は返済されたものの、その後3か月間返済されずという状況を想定してください。
契約書上は、2回返済を怠っているので、相手方は期限の利益を喪失し、
こちらは残金180万円を一括で請求できますし、
遅延損害金が年利14%発生する取り決めでしたので、
その分も日々金額が膨らんでいくこととなります。
このケースで、こちらとしては、相手は旧知の仲でもあるし、
無理のない返済スケジュールで返済してもらえればよいとか、
遅延利息は要らないので元本だけ返してもらえればよいと考えていたとします。
ところが、こちらから、相手に対して、そのようなアメを最初から与えてしまうと
(返済が難しいのであれば月額5万円ずつの3年払いでよい。遅延利息も要らないから元本は確実に返してね)、
相手はアメを受け取るだけ受け取って、それに甘えてしまい、再び延滞を繰り返すのは目に見えています。
(その2に続きます!)