消費者契約法の改正について その① 弁護士 宮川 敦子
1 はじめに
平成28年6月3日に公布された「消費者契約法の一部を改正する法律」が,
平成29年6月3日より施行されました。
消費者契約法は,消費者と事業者との間の情報・交渉力の格差をかんがみて,
消費者を保護する目的で制定されました。
しかし,近年の高齢化が進む状況において,
高齢者の消費者被害等のトラブルが増加する等,
改正前の消費者契約法では十分に消費者の被害救済を図ることが難しくなっていました。
こうした状況を踏まえ,近年増加している消費者トラブルに対応するために,
消費者契約法の改正が行われました(以下,改正消費者契約法を「改正法」といいます。)。
2 消費者契約法の改正点
今回の消費者契約法の主な改正点は,以下のとおりです。
Ⅰ 過量契約による取消権が新設されました(改正法4条4項)。
Ⅱ 不実告知による取消権についての「重要事項」が拡大されました(改正法4条5項)。
Ⅲ 取消権の行使期間が伸長されました(改正法7条1項)。
Ⅳ 債務不履行や瑕疵担保責任に基づく解除権を
消費者に放棄させる条項は例外なく無効になります(改正法8条の2)。
Ⅴ 取消権を行使した消費者の返還義務の範囲が限定されました(改正法6条の2)。
今回はⅠ,Ⅱ,Ⅲについてご説明いたします。
3 Ⅰ 過量契約による取消権の新設
(1)改正前
高齢者や障害者の判断能力の低下等に付け込んで,
健康食品や服飾品等の商品を大量に購入させるといった事案が
昨今の高齢化社会が進む状況において問題視されていました。
(2)改正後
そこで,新たな契約の取消事由として過量な内容の契約の取消しができる旨が
改正法において規定されました(改正法4条4項)。
それでは,一体,どのような事案であれば
過量な内容の契約の取消しの条文に基づいて契約の取消しができるのでしょうか。
過量な内容の契約に関する規定は,
㋐消費者契約の目的となるものの分量等が
当該消費者にとっての通常の分量等を著しく超えるものであることを,
㋑勧誘の際に事業者が知っていた場合において,消費者が,
その勧誘によって当該消費者契約の申込み又は承諾の意思表示をしたときに取り
消すことができることと規定しています(改正法4条4項)。
そして,「通常の分量等」については,
①消費者契約の目的となるものの内容,②取引条件,
③事業者がその締結について勧誘をする際の消費者の生活の状況,
④これについての当該消費者の認識を総合的に考慮した上で,
一般的・平均的な消費者を基準として,社会通念を基に規範的に判断されます。
分かり易い例を挙げますと,事業者が一人暮らしであると知っている消費者に対して,
同じ健康器具を何台も販売する事例や,摂取しきれないほどの大量の健康食品を販売する事例においては,
「通常の分量等を著しく超える」内容の契約に該当し,取消しがなされる事例に当たると考えられます。
なお,「通常の分量等を著しく超える」内容の契約に該当するか否かについては,
公益社団法人日本訪問販売協会のHPに掲載されている
「通常,過量には当たらないと考えられる分量の目安について」(※1)等が参考になります。
たとえば,健康機器については,過量には当たらないと考えられる分量の目安は,
1世帯につき1台とされています
(ただし,目安を超えた分量が直ちに過量に該当すると判断されるわけではありません。)。
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※1 公益社団法人日本訪問販売協会「『通常,過量には当たらないと考えられる分量の目安』について」
http://jdsa.or.jp/quantity-guideline/
(その②に続きます!)