『民法改正による消滅時効の改正点』 その1 弁護士 森 春輝
1 はじめに
平成29年6月2日,改正民法が公布されました。
今後民法改正により何がどう変わるのかは多くの方の関心事であると思われます。
改正民法の施行日である平成32年4月1日までに,
重要な点については押さえておく必要があります。
改正点は多岐にわたりますが,どのような業種の企業でも,
債権管理上の重要な点として,
消滅時効の改正点はしっかり押さえておく必要があるでしょう。
そこで,今回は,民法改正による,
消滅時効制度の改正点について,重要なポイントを解説していきます。
2 消滅時効の起算点と時効期間
消滅時効とは,長期間権利が行使されない場合に,
一定期間の経過によって,権利を消滅させる制度です。
現行法では,債権であれば,原則として,
権利を行使することができるときから計算して,
権利を行使しないまま10年を経過してしまうと,
その権利が消滅することになります(現行民法166条,167条)。
この,権利を行使することができるときとは,
支払期限が来たり,支払の条件を満たすなどして,
実際に債権を請求できるときのことをいいます。
また,現行法では,工事業者の工事に関する債権は3年,
生産者や卸業者・小売業者の商品代金債権は2年など,
職業ごとに,短い時効期間とする特則が定められています
(これを短期消滅時効といいます。現行民法170条~174条)。
今回の民法改正により,まず,
上記の原則的な消滅時効の起算点と時効期間について,改正がなされました。
改正後は,①「権利を行使することができる時」(客観的起算点)から10年,
または,②「権利を行使することができることを知った時」(主観的起算点)から
5年という二重の時効期間に変更され,
そのいずれかに該当すれば時効期間が経過したことになります(改正民法166条1項)。
契約に基づく債権ですと,
契約を締結したときに支払期限がいつなのかを認識しているのが通常ですので,
支払期限から5年で消滅時効にかかることになります。
そのため,契約に基づく債権の多くは,
支払期限から5年で消滅時効となると考えておきましょう。
また,現行法で定められている職業別の短期消滅時効の特則は今回の改正により廃止され,
上記の時効期間に統一されることになりました。
なお,現行法でも,商行為によって生じた債権については,
5年の商事消滅時効が適用されます(商法522条)ので,
そのような債権については,消滅時効期間は大きく変わらないことになります。
上記のとおり,民法改正後は,
契約に基づく債権は原則として5年の消滅時効にかかることになるので,
商事消滅時効の存在意義は失われることから,
この商事消滅時効も廃止されることになりました。
これにより,ある債権に通常の時効期間が適用されるのか,
それとも商事消滅時効の期間が適用されるのか,
という無用の争いがなくなることにもなります。
以上から,今後は,原則的にどのような種類の債権であっても,
契約に基づく債権の多くは,基本的に5年の消滅時効にかかることになります。
短期消滅時効等を前提に債権管理の仕組みを構築されていた場合には,
見直しが必要になるでしょう。
もっとも,改正後の消滅時効期間が適用されるのは,
改正民法施行日である平成32年4月1日以降に発生した債権となります。
ただし,債権の発生自体は施行日以降でも,
その債権のもとになる契約の締結自体が施行日前になされた場合は,
なお改正前の時効制度が適用されることになりますので,注意が必要です。
(その2に続きます!)