長時間労働の是正について~働き方改革関連法の成立~ その2 弁護士 齋藤 拓
(その1の続きです!)
3 年次有給休暇取得の義務化
1 現状の有給休暇取得率
平成28年の1年間に,企業が付与した有給休暇日数(繰越日数を除きます。)は,
労働者一人平均で18.2日,そのうち労働者が取得した日数は9日で,
取得率は約49.4%となっています。
これは,労基法上,与えられた年次有給休暇を取得するかどうかは労働者に委ねられており,
実際には,業務過多によりそもそも休暇を取得する余裕がなかったり,
あるいは休暇取得を申し出ることが憚られるような
雰囲気があるなどといった原因が考えられます。
2 10日以上の休暇のうち5日を取得することを義務化
そこで,改正労基法では,10日以上の年次有給休暇が与えられる労働者については,
そのうち5日は時季を指定して休暇を与えることが義務付けられました。
これまで業務過多等により,事実上休暇を取得することができないような
労働環境であった場合には,休暇取得が可能となるように,
人員の配置や休暇に入る労働者が担当する業務をフォローする体制を整えるなど,
企業には勤務体制の改善が求められます。
4 勤務間インターバル制度
勤務間インターバルとは,前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に,
一定時間を確保する制度です。
労働時間等の設定の改善に関する特別措置法の改正において,
一定時間の勤務間インターバルを設定することが,企業の努力義務とされました。
この制度は,たとえば,繁忙期で退社時間が午後11時になってしまった場合に,
始業時刻の定時が午前9時であるところ,
退社時間から11時間以内には出社してはならないと定めることにより,
午前10時までの出勤を禁止するといった具合に運用されます。
この場合,翌日の午前9時から取引先との打合せが予定されているのであれば,
午後11時まで残業を引き延ばすのではなく,
業務を効率化して午後10時までには終わらせなければならないという
強制力が労働者に働きますから,労働者の健康確保だけではなく,
労働生産性の向上にもつながる重要な制度であるといえます。
しかし,現状では,勤務間インターバル制度を導入している企業は約2.2%に止まっており,
本改正を皮切りに,同制度の普及が求められます。
5 おわりに
今回の改正で定められた規制は,その設定された残業時間の上限などからすれば,
いわゆる過労死基準よりも労働時間を抑制することを求めているものであるともいえます。
しかし,同基準を下回れば良いというものではなく,労働人口の減少や,
市場規模の縮小が進む今日においては,
労働生産性の向上やイノベーションの創出のために求められる改革の一環であると捉えるべきであり,
企業には,それぞれの業種に応じた様々な角度からの労働環境の改善が求められています。