弁護士堀鉄平の交渉の奥義!”「兵は拙速を尊ぶ」の真髄” その1
長期戦の100%よりも・・・
さて、本日は、交渉においては、「兵は拙速を尊ぶ」ということを覚えていただきたいと思います。
拙速とは、できはよくないが、仕事が早いことを言います。
古くは、中国の兵法書「孫子」の「兵は拙速なるを聞くも、
いまだ巧久なるを睹ざるなり」(多少まずいやり方で短期決戦に出る事はあっても、
長期戦に持ち込んで成功した例は知らない)ということばに由来しますが、
孫子が、戦争長期化によって国家に与える経済的負担を憂慮して述べられたのに対し、
このことばの現代の意味は、80パーセントの完成度でもよいので迅速に仕事を処理する方が、
100パーセントの完成を待っていつまでも仕事を処理しないよりも、
結果として高い成果を得ることができるであろうということです。
交渉の場面にこれを当てはめれば、
交渉・説得の準備が万全でなくても、完璧な準備を待って何もしないよりは、
迅速に交渉をまとめてしまったほうが高い成果を得ることができるということになります。
判決と和解の比較考量
このことは、我々弁護士が和解の交渉をするときなどに顕著にあらわれます。
たとえば、損害賠償請求事件の第1審において、
裁判所の主導により和解の説得が双方になされることはよくあるのですが、
私が原告代理人として1000万円を請求している事案で、
相手方も700万円であれば即日支払うという和解案でまとまりそうな場合に、
こちらのクライアントはあくまで満額の1000万円に近い形の900万円でないと
和解しないと頑なになっていた事件がありました。
損害賠償の請求というのは、請求する側で、損害や因果関係等の立証をする必要があるのですが、
この事件では、裁判所もどちらかというと私たちの言い分を信用しているという
心証だったかと思います。
ただ、1000万円全額の損害の立証まではできておらず、
証人尋問を待てばそれも可能ではないかという事案でした。
(その2に続きます!)