弁護士堀鉄平の交渉の奥義!『時間をフルに使いこなす達人への道』その②
(その①の続きです!)
例えば、会社の女性社員からのセクハラの申告の例を考えてみます。
題材としては、ある程度セクハラのような事実はあって、
しかし法的に会社が損害賠償をするほどではないという事案だと仮定してください。
一男性従業員から女性社員に対して、
ちょっとした言葉のセクハラがあったが(たとえば食事にしつこく誘うなどです)、
会社が監督義務違反だと言われて慰謝料を支払うほどではないという事案だとします。
女性の申告するセクハラ事実は、食事に誘われたことだけではなく、
男性社員から過去の恋愛経験や日常の性行為についてもしつこく尋ねられたこと、
いつもジロジロ見られていること、付け回されていることだとします。
こうしたケースでは、女性社員はちょっとした言葉であっても傷ついていることがありますから、
格別デリケートに扱うのがよいケースです。
会社として最悪な対応は、通り一遍の簡単な調査だけして、
当該男性従業員の言い分を聞き入れて、「この程度ではセクハラにはならないよ。」と
簡単に回答して終わるやり方です。
これでは、女性社員は会社に対して多大な不信感を持ってしまいます。
実際に、当該男性社員は単に食事に誘っただけで、ジロジロ見ているとか、
付け回したとかいうのは女性社員の勘違いだとしても、
それをあっさり女性社員に伝えて却下するのは上手くありません。
こういう場合は、じっくり時間をかけて目撃者を探して、聞き取りを行ったり、
当該男性社員に何回も色々な角度から聞き取りを行って(1か月から3か月くらいかけてもよいくらいです)、
最終的に書面で回答するのがベストです。
この「3か月くらいかけてから回答する」というのがポイントで、
時間をたっぷりかけることで、女性社員は、
「会社は自分のためにしっかり調査してくれているんだな」と思ってくれますし、
「それだけ調査してくれて、目撃者がいないのであれば仕方がないか」と諦めもつきやすくなります。
また、時間がたつことで女性社員の怒りのボルテージも下がってくるのが自然です。
そのようなタイミングを見計らって、
「当社は、●●年●月●日以来、貴殿よりのセクハラ被害の申告を真摯に受け止め、
セクハラ調査委員会を設置し、目撃者の証言聞き取りなど入念な調査を実行してまいりましたが、
会社としては、法的に賠償すべきセクハラの事実の確認ができませんでした。
事実の確認ができない以上、会社として金銭的な補償をすることはできませんが、
そのような貴殿よりの申し出がありましたことを当該男性社員には通達しておきますことをお約束いたします。」
といった書面で回答してあげれば、女性も満足して訴えを取り下げてもらえることが多いかと思います。
時間をかけることで相手の気持ちが変化するということを覚えておいたほうがよいでしょう。
では、今回はこの辺で。最後までお読みいただき、ありがとうございました。