弁護士堀鉄平の交渉の奥義!「与えて得る」という発想 その②
(その①の続きです!)
「与える」べきは金銭のみにあらず
このような「相手に与える」戦略ですが、
交渉や日常生活の場面でも、当てはまります。
例えば、私の会社に派遣で来ている従業員が、
「今月末で退職させてください」と申し出てきました。
派遣会社との契約上、その従業員にはあと3か月は来てもらう契約になっているので、
自分勝手な時期に辞めるのであれば、場合によっては損害賠償請求をすることも可能です。
よく事情を聞いてみると、正社員で雇ってもらえる会社が見つかった、
その会社にはすぐに入社することが条件となっていて、
当社との派遣契約満了まで待っていると就職のチャンスを逃してしまうというものでした。
本人は音楽の道を志しており、それに通じる会社なので、
私に迷惑をかけることを承知で、何とかならないかというものでした。
ここで、私としては目先の利益だけを追求し、契約を盾に取って、
契約期間を全うせよという交渉もあり得ました。
その従業員に費やした教育コスト、急な欠員に対する採用コスト、
業務が一時停止する機会損失等を計算すると、辞めないでくれと言いたくもなります。
しかし、私は、彼からの退職の申し出を快諾しました。
もちろん、本人の夢を叶えてもらいたいという応援の気持ちもありましたが、
一番の理由は、社内の雰囲気を重視したということです。
辞めたいという社員に無理に残ってもらっても、本人のモチベーションが上がらず、
生産性は落ちてしまいます。
また、他の社員も、「社長は冷たい」とか、「契約が何だ!」とトーンダウンすることでしょう。
こういうケースでは、派遣社員に恩を与えてあげるのです。
いつか彼が大物アーティストになってくれることを期待して。
それでは、今回はこのあたりで。
最後までお読みいただきありがとうございました。