『共有に属する株式の議決権行使に関する最新判例と今後の対策』② 弁護士 齋藤 拓
『共有に属する株式の議決権行使に関する
最新判例と今後の対策』② 弁護士 齋藤 拓
(①の続きです)
第3 株式の共有化の防止
1 遺言による方法
BさんとCさんが何年も裁判をして争うようなことにならないように,
Aさんはどうすれば良かったのでしょうか。
Aさんは,2000株を,BさんとCさんにどのように相続させるのかについて,
遺言書という形で決めておけば,このような事態は避けられました。
遺言書に,Bさんに1000株,Cさんに1000株を相続させると書いておけば,
共有状態ではなくなりますから,Bさん,Cさんの意見が異なったとしても,
それぞれ1000株分の議決権を行使できたことになります。
2 信託による方法
以上のような遺言によらなくても,Aさんは,信託を利用することによって,
株式の議決権を管理でき,相続となった場合によっても争いを回避できる場合があります。
信託とは,信頼できる人に自分の財産を信託財産として譲り,
その管理を任せ,自らはその財産から得られる経済的利益を得たり,
その利益を自分以外の第三者に得させることができる制度です。
財産の管理を委ねる人を委託者,財産の管理を任せられる人を受託者,
財産から得られる利益を受ける人を受益者といいます。
信託が遺言と異なるところは,たとえばAさんの場合ですと,相続が始まる前から,
自分が信頼するBさんに,X社の株式の管理を委ねられることです。
そして,X社の株式から得られる利益をAさんが受けとったり,
第三者に与えることができるのです。
また,信託の内容は,AさんとBさんとの契約で定めるため,
多彩な内容にすることが可能で,Aさんの様々なニーズを叶えることができます。
たとえば,Aさんが,自分が健在であるうちは,
これまで通りX社を経営していきたいけれども,急病に見舞われたり,
認知症を発病した場合に備えておきたいと考えていた場合には,
BさんにX社の株式を管理させるけれども,Aさんの判断能力に問題がないうちは,
議決権の行使についてAさんが指示しなければ,
Bさんは議決権を行使できないという内容の信託にすることが考えられます。
また,相続が発生した場合に,Bさんに議決権を集中させる一方で,
Cさんには株式の配当を受ける権利など経済的な権利のみを
受益権として与えるという内容の信託にすることも考えられます
(但し,議決権が集中することによって,
他の受益者の経済的な権利が侵害される危険性がないか,
そのような議決権行使が会社法上どのように取り扱われるのか,
また,そのような危険性のある信託契約が無効とされるおそれがないのかについては,
まだ十分な議論が尽くされているとは言えない面もあります。)。
第3 終わりに
株式の共有についてお話をしてきましたが,共有という状態は,
株式に限らず,不動産などについても同様に発生しますし,
その場合,不動産の管理や処分に支障を来すことがあります。
今回は,遺言と信託について,概略のみを説明させていただきましたが,
遺言書の作成や信託契約の締結には,様々な観点から検討が必要となりますので,
是非当法人にご相談下さい。
最後までお読みいただきありがとうございました。