『販売店契約で注意すべき独占禁止法上の規制』 その1 弁護士 森 春輝
1 はじめに
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」といいます。)は,
不当な取引制限や私的独占につながりかねない17類型の不公正な取引方法を規制しています。
メーカーが自ら消費者に商品の販売を行わず,
商品販売のノウハウを有する者に消費者への販売を行ってもらう取引をする場合,
販売店契約を締結することが多いと思います。
この販売店契約には,
独占禁止法の不公正な取引方法との関係で気を付けなければならない点があります。
そこで,今回は,不公正な取引方法のうち,
販売店契約を締結する際に特に注意すべき,
再販売価格の拘束(独占禁止法第2条第9項第4号),
排他条件付取引(同項第6号,昭和57年公取委告示第15号(以下,「一般指定」といいます。)第11項),
拘束条件付取引(同項第6号,一般指定第12項)の3つの規制について解説していきます。
2 再販売価格の拘束
メーカーとしては,自己の商品が,
販売店によって廉価で販売されてしまうと,当該商品の市場価値が下がり,
ブランド戦略上好ましくないなどの理由で,
販売店による販売価格(以下「再販売価格」といいます。)を契約で定めたり,
事実上メーカー側の示した再販売価格で販売しないと不利益に取り扱ったりしようとすることがあります。
このような場合に問題となるのが,再販売価格の拘束の規制です。
再販売価格の拘束とは,正当な理由がないのに,
再販売価格(販売店から商品を購入した顧客がさらに当該商品を販売する際の再々販売価格を含む。)を
拘束する条件を付けて取引することをいいます。
再販売価格が拘束されると,販売店は自由に値下げなどができず,
販売店間での自由な競争ができなくなります。
販売店が自由に値下げでき,
販売店間での自由な競争がある状態であれば消費者はより安い価格で商品を購入できるのに,
再販売価格が拘束されていると消費者は高い価格のまま商品を購入せざるを得ません。
そうすると,あたかも独占禁止法第3条で禁止されている価格カルテルが行われているのと
同様の状況になってしまうため,再販売価格の拘束は原則として違法となります。
ただし,正当な理由があれば,例外的に違法とはなりません。
流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針(平成3年7月11日 公正取引委員会事務局)によれば,
正当な理由は
①再販売価格の拘束によって実際に競争が促進され,
②当該競争促進が再販売価格の拘束以外の方法によっては生じえないものである場合に,
③必要な範囲と必要な期間に限り,認められるとされます。
これらの条件を満たすのは,市場に新規参入するメーカーが,
あえて再販売価格を低くして消費者に手に取ってもらいやすくするような場合など限定的な場合にとどまり,
正当な理由が認められるのは極めて限定的です。
なお,販売店がメーカーの代理人として商品を販売する場合は,
売買の主体はメーカーと顧客であり,
売主であるメーカーが価格を決められることは当然であるため,
再販売価格の拘束にはあたらず,違法とはなりません。
もっとも,商品が売れ残った場合には販売店に買い取らせるなど,
取引におけるリスクを販売店に負わせるような場合には,
再販売価格の拘束の規制を潜脱するために形式的に販売店を代理人としただけであり,
実質的には再販売価格を拘束した取引であるため,違法となります。
(その②に続きます!)